効果音や短い音素材を生成したいとき、どのAIツールを選べばよいかは悩みどころです。有料の音楽生成AIクラウドサービスは優秀ですが、様々なパターンを試したい場合には課金が気になります。
本記事では 「ローカルで」「無料で使えて」「短い音源(効果音・環境音・ループ)」 をターゲットにしたツールを整理・比較します。
生成AIに聞いてみた ローカル・無料でオススメの効果音生成AI
比較対象は、生成AIのおすすめによく挙げられる次の3つです。
- Stable Audio Open
- AudioGen(AudioCraft内の効果音モデル)
- Riffusion(音楽生成AIの原点的プロジェクト)
いずれもローカル実行を前提にしたモデルで、音楽生成そのもの(BGMや曲作り)は別記事に譲り、ここでは 効果音・環境音・短尺ループ という観点で絞って評価します。
なお、同様の音楽生成モデルとして MAGNeTも挙げられますが、同じMetaのAudioGenと同様の傾向があるため、本記事では詳細比較は行いません。
ツール概要:それぞれのサマリ
結論としてはStable Audio Openがおすすめ。 生成できる音声の品質や、条件はありますが商用利用も可能な点から、事実上一択となります。
| ツール | 結論・立ち位置 | 想定用途(この記事での前提) | 商用利用 | 導入難易度 | コメント |
|---|---|---|---|---|---|
| Stable Audio Open | ローカル・無料で効果音を作るなら事実上一択。商用も条件付きで現実的 | 効果音/環境音/短尺ループ(〜47秒・44.1kHzステレオ) | Community Licenseで中小規模の商用利用が可能(※最新ライセンス要確認) | 中(Python+CUDA環境が前提。CPU/M2だけだと実用は厳しい) | 音質・機能・ライセンスのバランスが最適。「ローカルでSFXを作りたい」に最短ルートで答えるモデル |
| AudioGen | 効果音特化だが 非商用前提+導入も重い。実務より学習・実験向け | 単発SE(猫の鳴き声/紙を破る音/車の通過音など)。16kHzモノラルで15〜20秒程度 | CC-BY-NC 4.0(非商用)のため商用不可 | 高(AudioCraft+PyTorch+CUDA+xformersなど多数の依存関係が必要) | 効果音専用という点は魅力だが、非商用制限とセットアップ難度から実務利用は難しい。Pythonで自動化を学びたい人向け |
| Riffusion | 歴史的意義は大きいが 現在は実務用途には不向き。実験・教材枠 | 音楽ループ本来。効果音用途は「遊び・実験レベル」。44.1kHz相当・約5秒(512px) | コードはMIT系だが生成物は用途依存(明記なし) | 非常に高(古いPyTorch・diffusersの再現+コード改変が事実上必須) | 「スペクトログラム→音」の発想を体験する教材として価値。品質・安定性・将来性が低く、本番用SFXには向かない |
Stable Audio Open:短尺SFXとループ向けの本命候補
Stable Audio Openは、Stability AIが公開している テキスト→オーディオ生成モデル です。
- 44.1kHzステレオで、最大約47秒までの音を生成できる
- ドラムループや環境音、UIのSEなど「短いサウンド素材」に最適化されている
- オープンウェイト配布で、ローカル実行が前提になっている
特に「UIクリック音や通知音、ブランド用SE、フォーリー(足音や紙の擦れ)、ドラムループやアンビエントパッド」といった用途が具体的に挙げられており、効果音と短尺ループの両方をまとめて担えるモデル というポジションです。
導入難度はやや高めですが、GPUが利用できる環境で快適に動作します。
AudioGen:効果音特化だが、導入難度は高め
AudioGenは、Metaが公開している 効果音生成特化モデル です。pareido.jpの「AudioGen入門」によると、
- 16kHzモノラルで15~20秒程度の音源を生成できる
- 音源の長さは任意に指定できるが、学習データは5秒を前提に訓練されている
- 「猫の鳴き声」「紙を破く音」「車が通り過ぎる音」など、具体的な音の生成が得意
導入は AudioCraftフレームワークに依存 しており、Windows CUDA環境ではPyTorchのバージョンやCUDA・xformersなど、多数の依存関係を手動で揃える必要があります。
音質面では16kHzモノラルという制約があるため、最終的にはDAWなどでの後処理(アップサンプリングやEQ、ノーマライズ)が前提になります。
また、AudioGenは商用利用は事実上不可能のため、個人用や実験・研究向けに限られます。 AudioCraftをインストールできれば、MusicGenやMAGNeTをはじめいくつかのライブラリが試せるため、Pythonでの自動化の試行には適しています。
Riffusion:歴史的意義は大きいが、現在は厳しい
Riffusionは、Stable Diffusionの発想を音に持ち込んだ 「音をスペクトログラム画像として生成→再変換する」タイプのモデル です。
- 44.1kHzモノラルでや5秒程度の音源を生成できる
- 連続して音を生成する機能もあるが実用には難しい
- 効果音向けという明記はなく、本来は音楽生成向け。
現在から環境を構築するには、Python 3.10 + PyTorch 1.13.1 +古いdiffusersなど、2022年頃のライブラリ構成を再現する依存性の解決が極めて難しく、また実質的にコードを一部変更しない限り動作しません。現在はほぼメンテナンスがされおらず、将来的に依存関係の崩壊で動かなくなるリスクが高い状態です。
Riffusionはもともと「音楽・ループ寄り」であり、狙ったSEをピンポイントで生成するには工夫が必要です。ただし、スペクトログラム生成という一度Stable Diffusionで画像を構成してそれを音源に変換するというアプローチは独特で、教材・研究・趣味的な用途では面白い選択肢と言えます。
ライセンス比較:商用利用の観点でどう違うか
Stable Audio Open:Community Licenseで中小規模の商用も想定
Stable Audio Openのライセンスは、Stability AIの Community License です。
- 年間売上が100万USD未満であれば、個人・中小規模の商用利用が許容される
- 「Powered by Stability AI」などの表記義務がある
- 生成物の権利は利用者側に帰属するが、公序良俗や権利侵害回避は利用者の責任
- モデルや出力を使って別の基盤モデルを再学習することは禁止
といったポイントが挙げられています。
つまり、小規模な商用案件(インディーゲームやアプリ、YouTubeなど)での利用も現実的に視野に入る ライセンス設計になっています。ただし売上規模や用途によっては個別の契約が必要な可能性があります。
実際に商用利用する前に、必ずStable Audio Openの公式ライセンスを再確認し、最新の条件を確認することをおすすめします。
AudioGen:Metaライセンス準拠(詳細は要確認)
AudioGenのライセンスはオープンウェイトが CC-BY-NC 4.0(非商用) であり、その生成物も同様とされています。
Riffusion:コードはMIT系、生成物は用途依存
Riffusionのライセンスは「コードはMIT系で公開」とされており、ソフトウェアとしてはMIT系ライセンスで改変や再配布の自由度は高いといえます。一方、生成された音源の利用については明記がありません。
Riffusionは生成物の品質からも、どちらかというと「技術の源流を学ぶ教材」として位置づけるべきで、商用案件よりも研究・趣味・実験向けと考えたほうが実用的です。
パフォーマンス比較:どこまで実務で回せるか
Stable Audio Open:CUDA環境なら実務速度、CPU/M2は厳しめ
Stable Audio Openの検証結果として、10秒音声・100 steps程度の条件では、
- Windows+RTX 4070(CUDA)では、1回あたりおおよそ1分未満で生成
- 同じWindowsマシンでもCPUのみだと10倍以上時間がかかる
- MacBook Air M2のMetal(MPS)でもCPUよりは速いものの、上記のCUDA環境と比べ1桁以上遅い
という傾向が示されており、何度も試行するという用途を想定すると、結論として「Stable Audio OpenはCUDA環境ほぼ必須」といえます。
ただし、音質検証やプロンプトの方向性確認程度であれば、短秒数・低ステップの設定に絞ることで、M2やCPUでもある程度は試すことができます。
本格的な量産フェーズは、GPUを持つWindows / Linuxに任せるのが現実路線です。
AudioGen:速度情報は限定的だが、GPU前提のモデル
AudioGenを含むAudioCraftは、PyTorch+GPUを前提にしたモデルです。
16kHzモノラルという仕様から、Stable Audio Openより軽いとはいえ、複数回の試行・バリエーション生成を行うならやはりGPUが欲しいところ。
Riffusion:互換構成なら動くが、速度・安定性ともに妥協が必要
RiffusionもPyTorch+GPUを前提にしたモデルです。
CPU実行では数十秒〜数分単位で時間がかかり、CUDAが利用できれば10倍以上の高速かも見込めます。ただしPyTorchの世代が古く、macOSではMetalサポートが未成熟でCPU推奨となります。
Riffusionは品質から「高速に量産して選別する」といった実務的な使い方には向きません。 「たまに動かして遊ぶ」「歴史的技術として触る」位置づけが現実的といえます。
品質・機能比較:どのような音が得意か
Stable Audio Open:実用的なSFXを44.1kHzステレオ主t力
Stable Audio Openは44.1kHzステレオで、最大約47秒まで扱え、テキストの指示にも忠実度が高く、実用的な素材をそのまま出力できる強みです。ただし音質は44.1kHzには満たない印象。
「海岸の波+カモメ」「屋根を叩く雨+遠くの雷」「焚き火の音」「森の環境音+鳥の声」「都市の環境音」といった自然音で、実践的な出力が確認できています。また楽器による効果音やアンビエント的な環境ループの両方に対応できることが確認されています。
ある程度の秒数が確保できるため、秒数・ステップ数・cfg_scaleなどのパラメータを調整することで、「まず短めに方向性を探る → 手応えがある設定でステップと長さを伸ばす」というワークフローが組める点も実務向きです。
出力結果はトリミングや音量の調整といった後処理が前提になります。
AudioGen:具体的なSEを素早く出したいとき向き
AudioGenは、16kHzモノラルという制約はあるものの、テキストへの忠実度が高く、「猫の鳴き声」「紙を破く音」「車が通り過ぎる音」など、単発のSEを作る用途では実用性もあります。
ただし、出力結果はトリミングや音量の調整といった後処理が前提になります。
Riffusion:質感の面白さはあるが、狙い撃ちは難しい
Riffusionは本来音楽ループ向けのモデルとぽされていますが、約5秒(512x512pxの画像からスペクトログラムを経由するという構造上、約5.9秒固定)という制約から効果音が用途となります。 ただし、「ドアが閉まる音」「UIクリック音」といった具体的SEを狙って生成するには、プロンプトとパラメータ、シードの組み合わせをかなり試行錯誤する必要があります。
導入の容易さ:どこから着手するのが現実的か
導入難易度という観点では、いずれもパッケージマネージャやインストーラで簡単に、とはいきません。いずれも古めのライブラリの依存関係の解決が必要で、Riffusionの場合は実質はコードに触る必要もあります。
一応、2025年10月現在の「いまのPython環境+GPU」で、再現性ある導入方法は組むことができます。
- 比較的、素直に導入できるのは Stable Audio Open
- 依存関係の解決が可能なら AudioGen
- コード改変が許容できるなら Riffusion
Stable Audio Openは、Python 3.10系+PyTorch+diffusers+stable-audio-tools という比較的現行世代のスタックで動作し、Hugging Faceのトークン発行とモデル利用申請を済ませれば、記事通りの手順で再現しやすい構成です。
一方で、AudioGenとRiffusionは「決まったバージョンセットにピン留めしないと動かない」「古いAPIとの互換パッチが必要」といった要素が多く、本格的に取り組むほど 環境構築がメインの作業 になりがちです。
またRiffusionの場合、加えてコードの改変を行う必要もあります。
いずれも導入が容易とは言い難く、Pythonについての一定以上の知識が要求されます。 ローカル・無料にこだわる方にのみおすすめします。
どう選ぶべきか:用途別の指針
結論としては、どうしてもローカル・無料にこだわる場合のみ、Stable Audio Openをおすすめします。
商用案件や将来のマネタイズを視野に入れたSFX制作が中心であれば、Stable Audio Open から始めるのがもっとも整理しやすい選択です。Community Licenseの条件のもとで中小規模の商用利用が明示されており、44.1kHzステレオで環境音やループも作れるため、「SEとループBGMの土台を一括でまかなう」ワークフローを組みやすくなっています。
一方で、ローカルLLMでの音楽生成がどんなものか試してみたい、Pythonも使えるし、という方には、AudioGen も有力な候補です。商用利用はできませんが、ドキュメントも充実しており、学習用途では有用と言えます。
Riffusion は、AI音楽技術の原点を体験するための「実験枠」として扱うのがよさそうです。互換構成が必要で、将来の動作保証もない一方、「スペクトログラムで音を作る」という発想そのものは面白く、教材としての価値は高いといえます。
関連リンク
具体的な導入手順やコード例、より詳細な検証結果は、以下のpareido.jp記事で解説されています。
Stable Audio Open入門:ローカルで使うテキスト→サウンド生成(Stability AI)
Stable Audio Open 検証・運用で遭遇した問題一覧(2025年10月現在)
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