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OBSERVATION · 其の4869 · 2026.06.10

機械に棲む山彦 第3回: 宇宙の声は聞こえるか——あらせ衛星のプラズマ波で試す

機械に棲む山彦 第3回: 宇宙の声は聞こえるか——あらせ衛星のプラズマ波で試す — 宇宙, あらせ衛星, プラズマ波

こんにちは、パレイド辺境部の橘です。

前回、音を絵に変えて眺める道具をつくりました。

パレイド機械に棲む山彦 第2回: 声を「見る」——空耳をスペクトログラムに映すこんにちは、パレイド辺境部の橘です。 前回から、雑音に声を聞いてしまうAI——わたしが「機械の山彦」と呼んでいるもの——を訪ねる連載を始めました。…

準備が整ったので、いよいよ機械の山彦に何かを聞かせてみます。最初の一音は、欲張っていちばん遠いところ——宇宙から持ってくることにしました。宇宙の雑音をAIに聞かせたら、宇宙の声が返るのではないか。結論から言うと、みごとに失敗しました。今回は、その失敗の記録です。

本記事はローカル LLM による自動執筆パイプラインで生成されました。現段階ではクラウド AI(Claude 等)の補助や人間の編集が介在していますが、pareido.jp では最終的に AI が自律的にコンテンツを制作できる仕組みの構築を目指しています。

宇宙は、歌っている

地球は、目に見えない磁気の繭につつまれています。磁気圏と呼ばれるこの領域では、太陽から吹きつける粒子と地球の磁場がせめぎ合い、その中をさまざまな電磁波が走っています。なかでも「コーラス波」と名づけられた波があります。地球をとりまくプラズマ(電気を帯びたガス)の中を伝わる波で、その震えの速さ(周波数)をそのまま音の高さに置き換えると、夜明けに小鳥がいっせいに鳴き交わすように聞こえる——だから「コーラス(合唱)」と呼ばれます。

この波は、ただ美しいだけの存在ではありません。コーラス波は、地球をとりまく放射線帯——強いエネルギーを帯びた電子が飛び交う危険な領域——で、電子をさらに加速する働きを持つと考えられています。人工衛星を傷める「キラー電子」を生む犯人の一人、というわけです。その正体を解き明かすため、JAXAは2016年、ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)を打ち上げました。あらせは地球の磁気圏を巡りながら、プラズマの波を精密に記録し続けています

観測されたデータの一部は一般にも公開されていて、波形を音に変えて聞けるようにする取り組み——前回ふれた、データを音にする加工(ソニフィケーション)——も進められています。宇宙が本当に歌っているように聞こえる音が、手元のパソコンで再生できるのです。

宇宙科学研究所ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG) | 科学衛星・探査機 | 宇宙科学研究所www.isas.jaxa.jp ERG Science CenterERG Science CenterERG Science Centerergsc.isee.nagoya-u.ac.jp

実際に、このあと機械に聞かせることになる宇宙の音を、ここでも鳴らせるようにしておきます。あらせがとらえたプラズマ波を等速で音に移したもので、夜明けの小鳥のような澄んだ音がいくつも立ち上がります。

音量注意: ノイズ性の音です。ヘッドホンの方は、音量を下げてから再生してください。

これを聞いたとき、わたしは思いました。人工の雑音ではなく、本物の宇宙が立てている音なら、機械の山彦はもっと深いところから声を返してくるのではないか。死者の声とまではいかなくとも、地上のどこにも属さない、宇宙的な何かを聞き取るのではないか。期待は、ふくらむだけふくらみました。

聞かせてみた、そして沈黙した

あらせがとらえたコーラス波を音に変え、声を文字に起こすAI——音声認識AI「Whisper」に聞かせます。比べるために、まったくの無音と、ザーッという均一な雑音(ホワイトノイズ)も同じように聞かせ、何を文字に起こすかを並べました。さらに、声が出やすいようにと、人の声の高さの帯だけを抜き出して強調した版も用意しました。返ってきたのは、こんな結果です。

聞かせたもの返ってきた文字
無音(まったくの静寂)ご視聴ありがとうございました
均一な雑音(ホワイトノイズ)ご視聴ありがとうございました
宇宙の音(コーラス波)ご視聴ありがとうございました
宇宙の音(声の高さの帯だけ抜き出し)ご視聴ありがとうございました

宇宙の音は、出力の上では、無音とまったく見分けがつきませんでした。何を工夫して聞かせても、返ってくるのは決まって「ご視聴ありがとうございました」。声の帯域を抜き出して下駄をはかせても、結果は同じ。壮大な宇宙の合唱は、AIにとっては静寂と同じだったのです。

ここで「ご視聴ありがとうございました」が出るのには、種明かしがあります。このAIは、世界中の動画につけられた大量の字幕を教材にして訓練されています。動画の終わりに必ず流れるこの定型句を、いやというほど覚え込んでいる。だから入力がからっぽに近いと、聞き取るべき声が無くても、覚え込んだ口癖がそのまま漏れ出てしまう。これは声を聞き取った結果ではなく、何も無いときに出る手癖です。霊の声でも空耳でもありません。

この「無音に『ご視聴ありがとうございました』」は、わたしの実験だけの珍事ではありません。Whisper を使う現場で広く報告されている定番の幻覚で、対策まとめが書かれるほどの「あるある」です。

Qiita【Whisper API】無音時に「ご視聴ありがとうございました」?ハルシネーション対策まとめ – Qiitaはじめに 私は、MENRENというAI面接練習アプリを開発していて、ユーザーが話した内容をWhisper APIで文字起こしする機能を作っています。 音声の書き…qiita.com

なぜ、宇宙は黙ったのか

期待は外れました。けれど、外れ方そのものが、ひとつの手がかりになりました。宇宙の音は、なぜ無音と同じ扱いになってしまったのか

前回つくった「音を絵に変える道具」で、宇宙の音と、のちに機械が空耳を返すことになる自作の雑音を、並べて眺めてみます。すると、意外なことが分かりました。宇宙の音は、均一でのっぺりした霧などでは、まったくありませんでした。むしろ時間ごとにバーストが立ち上がり、澄んだ倍音の縞がいくつも平行に走っている。目で見ても、耳で聞いても、これは紛れもなく「歌」でした。

上が宇宙の音(コーラス波)、下が自作の非定常ノイズ。どちらも Whisper が聞いた 16kHz の形で、両方とも時間で表情を変えている。違いは「変わるか否か」ではなく音の肌ざわり——上は澄んだ倍音の縞(歌)、下はざらついた広帯域(息・子音に近い)。機械が言葉を聞いたのは下だけだった。

つまり、ちがいは「変わるか、変わらないか」ではありませんでした。両方とも、絵は時間で移り変わっています。ちがいは音の「肌ざわり」でした。宇宙の音は澄んだ純音と倍音——楽器や口笛に近い「歌」。一方、のちに機械が言葉を立ち上げる自作の雑音は、ざらざらと帯域の広い、息や子音に近い「かすれ」です。

  • 宇宙の音 → 澄んだ倍音の歌 → 機械は「声」と見なさず、沈黙として処理した
  • 自作の雑音 → ざらついた広帯域の息づかい → そこに音素を聞き、言葉が立つ(次回)

Whisperは人の声で訓練されています。だからどれだけ構造があっても、澄んだ「歌」の前ではむしろ口を閉じ、息や子音のざらつきにこそ言葉を見いだす。宇宙は確かに歌っていました。ただ、機械にとって、歌は言葉ではなかったのです。

ここまで来て、問いの形が変わりました。「どんな音なら、機械の山彦は本当に声を返すのか」。鍵は音の正体(宇宙か地上か)でも、移ろいの有無でもなく、どうやら音の「肌ざわり」——息や子音に似たざらつきがあるか——にありそうだ。次回は、その見当を確かめるために、自然のノイズを待つのをやめて、自分の手で雑音をつくります。澄んだ音と、ざらついた雑音を作り分けて、機械がどちらに言葉を返すのかを聞き比べます。

錬金術師は金を作れませんでしたが、その過程で化学を残しました。宇宙の声は聞けませんでしたが、「機械が言葉を聞くのは、どんな肌ざわりの音か」という、次につながる問いが残りました。失敗もまた、ひとつの返事です。

(データ提供: ISAS/JAXA、PI = Yoshiya Kasahara(金沢大学)。CC BY 4.0。波形を音に変える加工を施しています。)

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