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OBSERVATION · 其の5074 · 2026.06.17

機械に棲む山彦 第7回: 唸り声に名前をつける——ブーバという存在

機械に棲む山彦 第7回: 唸り声に名前をつける——ブーバという存在 — 山彦, ブーバー, 機械

こんにちは、パレイド辺境部の橘です。

この連載では、声の入っていない雑音を機械に聞かせて、そこから立ち上がる空耳を一つひとつ書き留めてきました。第6回では、「○○方向を望む」という、まるで百科事典の写真説明のような一句が繰り返し降ってくることを見ました。今回は、それとは少し毛色の違う声の話です。地名でも文章でもない、ただの一語。しかもその一語が、ダイヤルをどれだけ大きく回しても、同じ音で返ってくる。山に向かって唸ったら、唸りがそのまま名前になって戻ってきた——そんな奇妙な木霊の記録です。

本記事はローカル LLM による自動執筆パイプラインで生成されました。現段階ではクラウド AI(Claude 等)の補助や人間の編集が介在していますが、pareido.jp では最終的に AI が自律的にコンテンツを制作できる仕組みの構築を目指しています。

砂嵐から立ち上がる、同じ一語

これまでと同じ手順です。声をひとつも含まない雑音に「種」と呼ぶ数字を与え、同じ種なら何度作り直しても寸分違わぬ雑音が生まれる。その雑音を聞き取りソフトに渡し、機械が何を「言葉」として書き起こすかを観察する。今回は雑音の作り方を三通りに分けて、それぞれを一時間ずつ回しました。低い帯、中ほどの帯、高い帯——ラジオで言えば、ダイヤルの場所を大きく三つに振り分けたようなものです。

ふつうなら、ダイヤルの場所が変われば入ってくる局も変わります。ところが今回は、三つの帯のどれを回しても、同じ一語が顔を出したのです。互いに無関係な四種類の雑音から、揃って次の一語が返ってきました。

ブーバー

最初は書き起こしの取りこぼしか、何かの聞き間違いだろうと思いました。けれど数が積み上がるにつれ、無視できなくなります。とりわけ気になったのは、その一語が文の中に紛れ込んでくる形でした。ある雑音では「ブーバーしっかりとしています。私はあなたを愛しています。」、別の雑音では「ブーバーしません」。否定の語尾までついて、まるで「ブーバーする/しない」という動詞ででもあるかのように、機械はこの一語を扱っていました。意味は分かりません。それでも、文の骨格だけは妙に整っている。これまで何度も出会ってきた、あの感触です。

ここで、実際に聞いていただくのがいちばん早いと思います。三つの帯から拾った空耳を、一本のラジオ放送のように縫い合わせて、読み上げ音声にしました。古い AM ラジオの帯域にわざと寄せ、砂嵐のような雑音を背後に薄く敷いてあります。ザーッという音の向こうから、ふいに放送が立ち上がってくる——そんなふうに聴いていただけたらと思います。最後のほうに、あの「ブーバーしません」が入っています。

音声合成: VOICEVOX:玄野武宏

念のため断っておくと、これは演出です。元の機械は、こんな放送のかたちで言葉を返したわけではありません。ばらばらに書き起こされた断片を、わたしが聴きやすいように一本につないだだけです。ただ、こうして帯域を絞って雑音を被せると、機械が聞き取ったときの「条件」に、わたしたちの耳のほうも少し近づける気がします。声のない雑音から、いちど言葉を知ってしまった耳が、また同じ言葉を拾い直す。その往復を、放送という器を借りて再現したものだと思ってください。

ブーバとは何者か

では、この「ブーバ」とは何なのか。種明かしをすると、これはわたしたちが知らない呪文ではありませんでした。ブーバ(Booba)は、実在する子ども向けの 3D アニメです。白いもじゃもじゃの、小さな生き物が主人公で、YouTube で数百万規模の登録者を集める作品です。海外のアニメ専門チャンネルや、定額制の動画配信サービスでも観られる、世界的に親しまれています。

www.3dsparrow.comBoobawww.3dsparrow.com

ここからが、この回のいちばん面白いところだと思います。このアニメには、決定的な特徴があります。登場するキャラクターは、ひとことも言葉を話さないのです。台詞がない。代わりに、唸り声や、鼻にかかった鳴き声や、息のような音だけで、驚きや喜びや戸惑いを表現する。いわば、声はあるのに言葉のないアニメです。

ここで一つの推測が浮かびます。聞き取りソフトは、膨大な量の動画を教材にして「この音は、この言葉だ」という対応を覚え込んでいます。その教材のなかには当然、人の話し声の動画もあれば、言葉を持たない唸り声だけの動画もある。そして機械が雑音のなかから、ざらついた息や、低い唸りに似た音素を拾い上げたとき——「言葉なき唸り声」にいちばん近い教材のラベルが、ブーバだった。そう考えると、辻褄が合います。

第6回で見た「○○方向を望む」が、写真説明という文字の地層から来た声だったとすれば、ブーバは、文字でも文でもない、唸りや息そのもの、つまり「言葉になる前の声」の地層から立ち上がってきた声なのです。機械が文字を聞くとき、それは写真の説明文を返す。機械が声そのものを聞くとき、それはブーバを返す。同じ雑音という素材から、聞き取りの角度が変わるだけで、別の地層が顔を出す。三つの帯のどれを回してもブーバが返ってきたのは、「言葉なき声」へ引き寄せる谷が、それだけ深く掘られているからだと考えられます。

ついでに、寄り道を一つだけ。「ブーバ」という響きには昔から知られた小さな不思議があって、丸い図形と尖った図形を並べてどちらが「ブーバ」かと尋ねると、多くの言語圏で丸いほうを「ブーバ」と答えやすい、という報告があります。台詞のない生き物の鳴き声に「ブーバ」と名づけた人と、雑音の唸りに「ブーバ」を聞いた機械が、まろやかな唸りという同じ音にたどり着いたのだとしたら、偶然の重なりとしても少し出来すぎている気がします。深入りはしません。味として、ここに置いておきます。

立つ機械が変われば

いつものように、限界も正直に書いておきます。ここで三つの帯から拾えたブーバは、この一台のパソコン、同じ作りの聞き取りソフト、同じ教材で訓練された機械という条件の上に立っています。計算機が変われば、ごくわずかな計算の誤差から、返ってくる声は別の一語になるかもしれません。「ブーバー」が「ブーバ」になり、あるいはまったく別の名に化けることも、十分にありえます。山彦は、立つ山が変われば違う声を返します。機械の山彦も、立つ機械が変われば違う声を返す。再現できると言っても、それは「同じ山に立てば」という但し書きつきの再現です。

それでも、確かなものは残りました。三つの別々の雑音を前にして、機械が揃って一語を返したという事実。しかもそれが、台詞を持たない生き物の、唸り声につけられた名前だったという事実。声のない雑音から、機械はまず「言葉になる前の声」を聞き取り、そこに人間がつけた一番近い名前を当てた。意味のないものから意味を立ち上げてしまう癖は、ここでも人間によく似ています。雲の唸りに名をつける昔の人と、砂嵐の唸りにブーバを聞く機械。どちらも、声そのものを、名前で受け止めようとしてしまう。

なお、ここで「存在」「空耳」と呼んできた現象は、音声認識 AI が手がかりの乏しい音に既知のパターンを当てはめてしまう、いわゆるハルシネーション(AI がもっともらしい誤りを生成すること)と考えられます。その出どころや意味づけをどう読むか——「言葉になる前の声」の地層といった解釈は、当サイト独自の考察です。

次回は、もう一つの存在を扱います。今回のブーバが「言葉になる前の声」の地層から来たとすれば、次に降ってくるのは、画面の隅にうっすら焼きついた透かしの文字——ある実在のチャンネル名が、ふいに顔を出す話です。声の地層と、文字の地層。対になる二つの木霊を聞き比べながら、機械の聞く耳が、どの地層に手を伸ばしているのかを、もう少し細かく描いていきたいと思います。また、同じ山のふもとで。

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