こんにちは、パレイド辺境部の橘です。
前回 (エピソード 6 寒戸の婆) では、藁草履と老女が SDXL の学習データから抜け落ちている話を書きました。
本回は エピソード 7 「第 89・91 話 山の神」。山中で出会った巨人の山の神と、その祟りで谷底に倒れた老猟師 (鳥御前) の話。AI に渡したときに、「巨大さ」を画面に出す難しさ と、Wan2.2 が人物を勝手に分裂させる hallucination に同時にぶつかった回です。
本記事はローカル LLM による自動執筆パイプラインで生成されました。現段階ではクラウド AI(Claude 等)の補助や人間の編集が介在していますが、pareido.jp では最終的に AI が自律的にコンテンツを制作できる仕組みの構築を目指しています。
原典の一節
山口村の何某、家に帰る道にて夕暮れに山の神に逢へり。赭き顔・耀く眼の巨人にて、見上ぐるばかりなりき。
……
また鳥御前といふ猟師あり。連れと共に山に入りて、夕方に向山の大岩のあたりにて、山の神に出会ひしより気を失ひて谷底に倒る。
山の神 は 見上げるほどの巨人 として記述され、若者と出会ったときの 体格差 が物語の核になります。さらに別の話 (第 91 話) では、老猟師の鳥御前が山の神に出会って 気を失い谷底に倒れる。AI で描くにあたって、(1) 巨人と人間の体格差、(2) 谷底に倒れる老人、という 2 つのモチーフをそれぞれ画面に出す必要がありました。
選び出したシーンと、画像生成の気づき
6 シーンのうち本記事で取り上げるのは、山の神出現 カット (シーン 3) と、谷底の鳥御前 カット (シーン 6) の 2 枚です。
「巨大さ」は同フレームに収まらない

シーン 3 は、夕暮れの森の道で、若者が山の神と ばったり出会う 場面。原典の「赭き顔・耀く眼の巨人にて、見上ぐるばかりなりき」を描くには、山の神 (8 feet) と若者 を同フレームに入れ、体格差を画面に出す必要がありました。
しかし、SDXL は 2-figure dramatic-scale 構図に弱い ことが分かりました。プロンプトで体格差を細かく指定しても、出てくる絵は 山の神 1 人だけが立っている絵 か、または若者と山の神がほぼ同サイズに描かれた絵に収束します。
加えて、「赭き顔」(赤い顔) の表現も出にくい という壁にぶつかりました。strikingly bright vermillion red flushed face intensely glowing white eyes のように 赤味と発光を冗長に指示 しても、降りてくる絵では赤味は薄れ、ほぼ普通の人間の顔色に近づいてしまう。SDXL の学習データは現実的な写真が中心なので、「赤い顔の超自然存在」 のような写実から外れた表現が出にくい、という構造的な癖があるようです。河童回 (エピソード 1) で書いた「現代日本人が共有していないモチーフは AI も出しにくい」と似た系統の制約で、ここは 「写実データの分布が、超自然的な視覚モチーフの表現可能域を狭めている」 という形で現れていました。
最初は両者を並べる構図で試しましたが、何度ガチャを回しても若者の存在が消えるので、山の神を画面の 70% を占める単独 portrait に振り替えました:
a towering massive supernatural giant mountain spirit (8 feet tall) with a strikingly bright vermillion red flushed face filling much of the frame, intensely glowing white eyes wide open with shock, dressed in tattered ancient kimono, … the giant red-faced spirit dominates 70% of the composition
dominates 70% of the composition the giant's red face is the unmistakable center of the image という 構図占有率 を文字で明示することで、ようやく巨大さが画面に乗りました。若者との出会いの場面は、別シーン (シーン 4) で 若者が走り抜ける場面 として分離し、narration で「山の神に出会った若者が逃げ帰る」とつなぎました。1 フレーム内で完結しない物語は、シーンを分割して narration で繋ぐ という、AI 動画制作で繰り返し使う手段に落ち着きました。
なお、SDXL の静止画で出にくかった赤い顔ですが、Wan2.2 で動画化する過程で、ふとした瞬間に赤味が立ち上がるカット がありました。動画は静止画の中間フレームを補完する過程で、prompt の指示が再解釈される瞬間がある — そこで「赭き顔」の手応えが、静止画では諦めかけていた強さで一瞬出てくることがあります。静止画で完結しないモチーフが、動画化のプロセスで救われることもある という発見で、これは別のエピソードでも何度か遭遇する感覚でした。
倒れた老人が、勝手に 2 人に分裂する

シーン 6 は、山の神に出会って気を失い、谷底に倒れた老猟師 (鳥御前)。静止画は問題なく出ました — 1 人の老人が落ち葉の中に倒れ、もう 1 人の連れの男性が斜面を駆け降りてくる構図。
ところが、これを Wan2.2 i2v に渡すと、気を失って倒れている老人が、動画の中で 2 人に分裂 することがありました。一人の体が動きの中で増殖し、谷底に同じ老人が複数横たわっているように見える。これは Wan2.2 の i2v でしばしば起きる 人物分裂 hallucination です。
抑制のため、motion_prompt に 異常なほど明示的なネガティブ指定 を入れました:
the single unconscious elderly hunter lies still at the bottom of the rocky valley, … no other figures appear, no duplicate body, the lone figure remains the only person in frame
the lone figure remains the only person in frame no duplicate body を入れて、それでも 1〜2 回の再ガチャを要しました。Wan2.2 は 「人物が画面の一部に居る」状況で、動きを生成する過程で別の人物像を呼び出して複製する 傾向があるようです。これは別の回 (エピソード 8 山男、エピソード 12 狼) で取り上げる予定の hallucination カタログの一例で、AI が古典に勝手に 「別の物語」を重ねる 現象のひとつでもあります。
動画化したときの気づき
シーン 3 の山の神の動画化では、巨人の視線が動く瞬間が出ました。「見られる」ことが祟りである という原典の構造を、視線の動きが直接に支える結果になりました。
ただ、ここでも no second person appears を motion_prompt に入れています。Wan2.2 は森の道に「もう一人の人物」を勝手に増やしがちなので、山の神の単独像を守るために抑制が必要でした。
音楽をつけたときの驚き
BGM は ACE-Step に、「山の遠さ」を音響で支える ように投げました。
降りてきた BGM は、低音のドローンが山の重量を支え、ときおり遠い太鼓のような打音が混ざる構造でした。画面に 収まりきらなかった巨大さ を、低音の周波数が引き受けてくれた瞬間です。画像で表現しきれない情報を、音響が補完する。これは AI 動画制作で、画像と音楽がそれぞれ別のレイヤーから物語を支えていることを実感する手応えでした。
VOICEVOX 朗読では、本回も 誤読の修正 が必要でした。原典の 「鷹匠」(タカショウ) が、VOICEVOX では 「タカジョウ」 と読まれます。古い職能の読みが現代 TTS の辞書から落ちている、ということです。reading をカナで タカショウ と明示して修正しました。また「アカき顔」が「アカキガオ」と濁音化する連声誤読も発生 (前回 寒戸の婆と同じパターン) で、これは reading で アカきカオ と明示しました。古文を VOICEVOX に読ませる時、単漢字の読み + 連声 の 2 系統で修正が必要になります。
関連情報 — 山の神は、早池峰山と六角牛山に住む
遠野郷三山と呼ばれる 早池峰山・六角牛山・石上山 は、いずれも山岳信仰の対象で、山の神祭祀の場でもありました。原典の第 89 話の舞台 (愛宕山) は遠野市内の小さな山ですが、山の神そのものの信仰は 早池峰山 を中心に広がっていたとされます。
早池峰山 は岩手県花巻市・遠野市・宮古市の境界にまたがる標高 1,917 メートルの山で、山頂の早池峰神社は古くから女神 (瀬織津姫) を祀る山岳信仰の中心。修験道の修行場としても知られ、原典の「山の神」 のリアルな背景には、この早池峰山系の山岳信仰の地層があります。
修験道は仏教と神道が習合した日本独自の山岳信仰で、山に分け入ることそのものが修行 とされました。原典で若者や老猟師が山中で山の神に出会うのは、修験道の世界観における 「山は神域、入る者は受け入れられるか祟られるかが決まる」 という構造を、民俗譚の形で記録したものだと読めます。
位置情報
- 早池峰山 (山頂): Google マップではこのあたり (岩手県花巻市・遠野市・宮古市の境界)
- 早池峰神社 (奥宮): 早池峰山山頂、里宮は遠野市附馬牛町
早池峰山は次回エピソード 7 山男・第 10 回エピソード 9 天狗の舞台でもあります。山岳信仰の三山が、本連載の後半でしばらく繰り返し舞台として現れます。
エピソード 7 山の神 — 完成した 90 秒
実際の AI ショート動画は YouTube で公開しています。
- エピソード 7 山の神
90 秒のあいだに、愛宕山の祠、夕暮れの森を歩く若者、赭き顔の巨人、走り抜ける若者、老猟師の二人連れ、そして谷底に倒れた鳥御前まで、低音のドローンとともに語られます。AI には「見るとは見られることである」 — 視線の祟りの構造が見えています。
次回は エピソード 8 山男。原典の山男という巨体の異形を AI に描かせると、Wan2.2 が 焚火 + 狼のシーンに中世ヨーロッパ風の男性を勝手に混入させる という、特異な hallucination が起きました。AI が古典に 「学習データの中の別の物語」を重ねる 現象を、山男という題材で書きます。