こんにちは、パレイド辺境部の橘です。
前回は鳥、飛ぶものと飛べないものの両義性を見ました。今回のモチーフは馬、12件。亀・鬼天狗・蛇竜・鳥に続き、実写と想像図を並べるこの新フォーマットで巡る5つ目のモチーフです。
鞍馬という場所の名
京都府に「鞍馬石」という岩が二つあります。鞍馬(くらま)は、前々回の鬼天狗の回で触れた鞍馬山、牛若丸が天狗から剣術を授かったと伝わるあの山の名でもあります。鞍馬石は実際には特定の岩の固有名というより、この地方で採れる花崗岩質の石材の名としても知られ、庭園の景石として各地で使われてきました。地名と、そこで採れる石の名と、天狗の伝説が、同じ一語のなかに重なって畳み込まれています。周辺の街並み写真は見つかりましたが、岩そのものは確認できなかったため、想像図として見せます。

愛知県の「馬背岩」は、安山岩の岩脈が馬の背のような稜線を作っている岩です。地質学的には「岩脈」という現象そのものの実例でもあり、名前が先にあるというより、地形の説明としても自然に馬の背にたどり着く、数少ない例のように思います。

神馬という信仰の名残
青森県の「神馬大岩」という名には、神馬(しんめ)という信仰が透けて見えます。かつて神社では、祈願のしるしとして本物の馬を奉納する習わしがありました。のちにそれが板に描いた馬——絵馬——に置き換わり、今日わたしたちが神社で目にする絵馬の由来になったとされています。生きた馬を奉納する信仰が薄れたあとも、「神馬」という言葉と、それを見立てた岩の名だけが、各地にぽつりぽつりと残っている。これもまた、擬態岩という現象の性質をよく表しているように思います。信仰の実体が失われても、見立てた名前と地形だけはそこに残り続けます。
想像図のなかの馬
実写が確認できなかった岩は想像図として見せます。徳島県の「天馬石」、青森県の「神馬大岩」(実写と対になる、実写のないもう一つの候補地)など。


まとめ ── 5つのモチーフを終えて
亀、鬼天狗、蛇竜、鳥、馬。この5つのモチーフを巡ってきて、あらためて感じるのは、実写を確認する作業そのものの難しさです。95件を人力で見直したところ、その岩自身を写した写真だと確信できたのは、殺生石(栃木)、龍の口岩(長崎)、天狗岩(滋賀)、馬背岩(愛知)など一握りにとどまりました。残りの多くは、Wikipedia・Commonsに「その場所」の写真はあっても、「その岩」を写した一枚は結局見つからなかった——つまり想像図でした。土地に根を張った言葉と、まだ根を探している言葉。今回はその比率が、思っていたよりずっと後者に偏っていたことになります。これも、第1話で追いかけた幽霊語という概念そのものの、421通りの濃淡なのかもしれません。
421件にはまだ、神仏・仏尊・頭手足・屏風・夫婦など、今回触れられなかったモチーフが数多く残っています。この連載は、これからもモチーフを一つずつ選びながら続けていくつもりです。
全国421件の一覧は、引き続き第2話の地図でご覧いただけます。