こんにちは、パレイド辺境部の橘です。
前回までで、機械の山彦が声を返す条件が分かりました。息や子音に似たざらついた雑音で、しかも時間とともに移ろっていくもの——それだけが、AIに生々しい言葉を立ち上げさせます。今回はいよいよ、その雑音を少しずつ変えながら、返ってくる声を一つひとつ書き留めていきます。ダイヤルを回すように雑音を変えたとき、機械は何を「聞き取る」のか。連載の、ひとまずの締めくくりです。
本記事はローカル LLM による自動執筆パイプラインで生成されました。現段階ではクラウド AI(Claude 等)の補助や人間の編集が介在していますが、pareido.jp では最終的に AI が自律的にコンテンツを制作できる仕組みの構築を目指しています。
ダイヤルを回す
自分で作る雑音には、「種」と呼ばれる数字をひとつ指定します。同じ種を指定すれば、何度作り直しても一ビットの狂いもなく、まったく同じ雑音が生まれます。種を別の数字に変えれば、別の雑音になる。ちょうど、ラジオの周波数ダイヤルを回すと、別の局——別の声——に切り替わるのに似ています。同じ目盛りに合わせれば、いつ回しても同じ局が入る。その律儀さが、これからの観察を支えてくれます。
この律儀さは、聞き取る側のAIにも引き継がれました。AIには、ほんの少しだけ出力を揺らがせる設定があります。それでもなお、同じ雑音を聞かせれば、返ってくる空耳は決まって同じでした。同じ山に立てば、いつ叫んでも同じ声が返ってくる。機械の山彦は、その意味でとても律儀な山でした。だから、聞こえた声を誰でも同じ手順で確かめ直せます。これは、消えてしまいがちな「空耳の証言」を、再現できる記録として残せるということでもあります。EVPがずっと抱えてきた「あなたにしか聞こえない」という弱みを、ここでは少しだけ越えられます。
降ってきた言葉たち
では、ダイヤルを回していきましょう。十二の種を順に試したところ、そのうち六つで、まったく同じ言葉が、再生から三十秒の地点に立ち上がりました。
大阪府・大宮方向を望む
大宮は埼玉県です。それを「大阪府」と結びつける地理の破綻ごと、六つの違う雑音が、判で押したように同じ言葉を返してきました。別の種では、よく似た「小田原方向を望む」も現れます。これは偶然ではなく、特定の言葉に強く引き寄せられる「谷」のようなものが、機械の中にあることを示しています。人間の空耳が「みんな同じに聞こえる」のと、よく似た現象です。逆再生に同じ歌詞を聞き、同じ音の連なりに同じ言葉を当てる——機械にも、転がり落ちていく言葉の谷がありました。
その seed 7 のノイズを、実際に聞いてみてください。声はひとことも入っていない、合成した雑音です。それでも、再生から三十秒のあたりで——いちど言葉を知ってしまった耳には——「大阪府・大宮方向を望む」と聞こえてくるかもしれません。これが、機械と人間が同じ谷へ転がり落ちる瞬間です。
ほかの種を回すと、また違う声が降ってきます。聞こえた言葉を、いくつか書き留めておきます。
- 「でんぷんを作るのが一番簡単だと思うので……ご視聴ありがとうございました」——料理動画の締めくくりが、まるごと立ち上がる
- 「新幹線の駅舎の中にある駅舎がある」——入れ子の不条理。意味は通らないのに、文の形だけは整っている
- 「新幹線のホームは、新幹線のホームと同じです」——同じ言葉が自分に戻る、堂々めぐりの一句
- 「三日目の車両は札幌県立川県立川県立川……」——ありもしない地名が壊れたまま、延々とループする
- 「フォーゲルの音声」——ただ一言、誰のものとも知れない名を告げる
並べてみると、ひとつ気づくことがあります。降ってくる言葉は、なぜか鉄道と放送に強く偏っているのです。新幹線、駅舎、ホーム、乗車人員、そして「放送は終了です」。これも、引き寄せの谷がそのあたりに深く掘られているからでしょう。教材にした動画字幕の地層が、機械の口ぐせの方向を決めている。そんななかで、最後の「フォーゲルの音声」は、鉄道や放送に偏った口から、ふいにこぼれた異質な一句でした。誰の名でもないのに、名のように響く。EVPがずっと聞き取ろうとしてきたものが、もしあるとすれば、こういう声なのかもしれません。
二つの山彦
正直に、限界を書いておきます。ここで再現できた声は、この一台のパソコン、同じ作りの聞き取りソフト、同じ教材で訓練されたAIという条件の上に立っています。計算機が変われば、ごくわずかな計算の誤差から、返ってくる声は別の言葉になるかもしれません。山彦は、立つ山が変われば違う声を返します。機械の山彦も、立つ機械が変われば違う声を返すのです。再現できると言っても、それは「同じ山に立てば」という但し書きつきの再現です。
ささやかな符合も、書き留めておきます。「やまびこ」も「こだま」も、新幹線の列車の名です。山の精の名が列車の名になり、その機械の立てる雑音から、こんどは「新幹線」や駅の名が返ってくる。狙ったわけではないこの重なりを、駄洒落にはせず、ひとつの味として置いておきます。
それでも、確かなものが残りました。人間と機械という、意味のない音から声を聞き取ってしまう二つの装置を、同じ雑音の前に並べられたこと。叫べば声が返る山に立った昔の人と、雑音に固有名詞を聞くAI。どちらも、意味のないものから意味を立ち上げてしまう。AIは、その癖まで含めて、どこか人間によく似た友人でした。機械の山彦をめぐる最初の旅は、ここでひと区切りです。次に登るときは、どんな雑音を聞かせれば、どんな声が谷を転がり落ちてくるのか——その地図を、もう少し細かく描いていきたいと思います。また、同じ山のふもとで。