古典妖怪データベース|著作権の切れた妖怪画と、写実化の「型」

著作権の切れた古典妖怪画(鳥山石燕ほか)を、妖怪ごとに集めた素材データベースです。各妖怪について【原画(木版・パブリックドメイン)/ 写実化した画像 / 出典 / 写実化の「型」】を並べています。

このページは連載 古典妖怪 LoRA の常設カタログです。記事が「制作の物語」なら、ここは日付を持たない「事典」。連載で新しい妖怪を扱うたびに、ここへ追記していきます。

権利について:原画はいずれも作者の没後100年以上が経過したパブリックドメイン作品です(出典を各エントリに明記)。写実化した画像と学習済みモデルは、本サイトで生成した二次的成果物です。最終的に、写実版データセットと学習済み LoRA も配布する方針です。

写実化の「型」── このDBの読み方

妖怪を写実的な画像に直そうとすると、すんなり写実になる妖怪と、どうしても写実にならない妖怪にくっきり分かれます。私たちはこれを2つの型に分けて整理しています。

どんな妖怪か 写実化
実在パーツ型 実在するものの組み合わせで姿が再現できる(蒼白い女+雪、など)。あり得ない身体を含まない できる
破れ型 あり得ない身体や物理(首が伸びる・頭が分離する・顔が無い・巨大化)が本質 できない(写実モデルが「日常のもっともらしい姿」へ読み替えてしまう)

なぜこう分かれるのかは、連載本編で扱います。各エントリの先頭に、その妖怪がどちらの型かを示しています。

なお、妖怪の「形」とは別に、画家の「画風」というもうひとつの軸もあります。同じ対象でも、誰がどんな手つきで描いたかで絵はまるで変わり、写実化はその手つきのほうを剝がしてしまう ── この軸は幽霊(河鍋暁斎)のエントリで扱っています。


雪女(Yuki-onna) 🟢 実在パーツ型

原画:石燕の雪女(木版・パブリックドメイン)
写実版:img2img で写実化(denoise 0.55、構図保持)

雪の中に立つ蒼白い女。姿は「女性」と「雪景」という実在する要素の組み合わせで、あり得ない身体を含みません。だから写実モデルでも素直に写実化でき、その写実画から学習した LoRA で、文字どおり「雪女」と打つだけで写実の雪女が呼び出せます。

轆轤首(Rokurokubi) 🔴 破れ型

原画:石燕の轆轤首(木版・パブリックドメイン)
原画(別ソース):葛飾北斎の轆轤首。首が長く伸びる「接続型」(パブリックドメイン)
原画(別ソース):佐脇嵩之『百怪図巻』の抜首。眠る胴から首が離れて宙に浮く「分離型」(パブリックドメイン)
写実化の失敗例:伸びる首が煙管に化けた(北斎を写実化)。破れ型は異形が日常へ均される

座敷で女の首が屏風越しに長く伸びる妖怪。この「伸びる首」はあり得ない身体です。写実化を試みると、座敷や着物は完璧に写実になるのに、伸びる首だけが消える。写実モデルは、あり得ないものを「もっともらしい何か」へ読み替えてしまうからです(伸びる首は煙管に、宙に浮く生首は寝姿に化けました)。破れ型の代表例です。

のっぺらぼう(Noppera-bo) 🔴 破れ型(欠落型)

原画:北尾政美ののっぺらぼう(パブリックドメイン)。つるりとした無貌の妖怪
写実化すると、無貌だったはずの顔に目鼻が補われる

顔が無いことが本質の妖怪。写実化すると、写実モデルは無貌の顔に目鼻を補ってしまいます(顔の要素を禁じても空白を許さない)。同じ破れ型でも、伸びる轆轤首の「過剰/分離型」に対し、こちらは「欠落型」です。

平家の亡霊(耳なし芳一) 🟢 実在パーツ型

月岡芳年が描いた平知盛の亡霊(パブリックドメイン)。波上に立つ甲冑の武者霊
写実化しても何も消えず成立する。甲冑武者と波はすべて実在要素

耳なし芳一の物語に現れる、壇ノ浦で滅んだ平家の武者の霊。甲冑武者と波と霊気はすべて実在する要素の組み合わせで、写実化しても異形を消されることなく成立します。芳一本人は人間で、型の対象外です。

幽霊(河鍋暁斎) 🟢 実在パーツ型 / 画風の軸

原画:河鍋暁斎の幽霊図(パブリックドメイン)。にじむ墨で描かれた痩せた幽鬼
写実版:写実化すると痩身の凄みも墨の質感も消え、整った写実の女性に均される

行灯のそばに立つ、痩せさらばえた女の幽鬼。姿そのものは「痩せた女性」という実在要素の組み合わせなので、図像としては写実化できます(その意味では実在パーツ型)。けれど暁斎の幽霊は、形よりも墨のにじみと闇の気配——つまり画家の手つきが本体です。写実化すると図像は残るのに、その手つきだけが剝がれ、石燕の雪女を写実にしたときと同じ「基盤モデルの顔」に均されてしまいました。ここから、型(何が描かれているか)とは別に、画家の画風(どんな手つきで描かれているか)という軸が見えてきます。

  • :実在パーツ型(図像は写実化できる)。主眼は画風の軸 ── 写実化が画家の手を基盤モデルの画風で上書きする
  • 出典(原画):河鍋暁斎『幽霊図』(c.1868–70 / 1889 没)/ Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
  • LoRA トリガー:(未学習)
  • 関連記事同じ幽霊でも、石燕と暁斎では別の手(連載 第5回)

化け猫(Bakeneko) 🟢🔴 実在パーツ型+破れ型(一体に同居)

原画:国芳「岡崎の場」より、手拭いを被り後脚で立って踊る化け猫(部分・カラー木版・パブリックドメイン)
写実版:後脚立ちも手拭いも消え、ただの獣の毛並みに均された
原画(別ソース):国芳の三幅対より、毛と煙の中に浮かぶ巨大な猫の顔(パブリックドメイン)
写実版:浮かぶ顔は毛並みのテクスチャに溶けて消えた(見立て型)

化け猫は、一体の中に「写実にできる猫」と「できない化け」が同居する初めての例です。猫そのもの(毛並み・目・身体)は実在パーツ型で写実化できますが、後脚で立つ・巨大になる・毛と煙の中に顔が浮かぶといった「化け」はすべて破れ型で、写実化すると剝がれて普通の猫の毛に戻ります。型は妖怪ごとに決まるのではなく、一体の「どの特徴か」で分かれる──そのことが化け猫で見えてきました。

  • :実在パーツ型(猫)+破れ型(化け)の同居。「化け」は写実化で消える
  • 出典(原画):歌川国芳(〜1861没)「岡崎の場」ほか三幅対 / Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
  • LoRA トリガー:(未学習。写実化が「化け」を壊すため)
  • 関連記事猫は写せても「化け」は写せない(連載 第6回)

猫又(Nekomata) 🟢🔴 実在パーツ型+破れ型(一体に同居)

原画:石燕『画図百鬼夜行』の猫又(木版・パブリックドメイン)。後脚で立つ2匹の猫、奥の1匹は尾が二股に裂けている
写実版:img2img で写実化(denoise 0.60)。直立も二股の尾も消え、縁側に座る普通の猫に均された

化け猫の親戚だが、由来ははっきり別筋です。化け猫が各地の「猫騒動」という語り物の総称であるのに対し、猫又は文献上の初出が古く(鎌倉時代)、「年老いた猫の尾が二股に裂ける」という固有の身体的特徴を持つ、輪郭のはっきりした妖怪です。写実化すると、化け猫の後脚立ちと同じように直立の姿勢も二股の尾も、写実モデルに均されて消えました。denoise を上げていく途中では、尾だけが用途不明な毛の房として画面に残る過渡状態も見えました──化け猫の「毛に浮かぶ顔」が煙に溶けたのと同じ壊れ方です。

  • :実在パーツ型(猫)+破れ型(直立・二股尾)の同居。「化け」は写実化で消える
  • 出典(原画):鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776)/ Wikimedia Commons
  • 起源:文献上の初出は藤原定家『明月記』天福元年(1233)、奈良で人を食い殺したという記録。『徒然草』第89段は、山の猫又とは別に「飼い猫も年を経れば化ける」と説く。尾が二股になるという特徴は江戸中期の伊勢貞丈『安斎随筆』・新井白石の記述で明文化され、石燕がその図像を定着させた
  • LoRA トリガー:(未学習。写実化が「化け」を壊すため、化け猫と同じ扱い)
  • 関連リンク
  • ゲームの中の猫又 ── ファミコン『女神転生』ROM解析連載で、種族「魔獣」に分類され、ステータスや習得呪文まで実測されています。AIで256倍楽しむ【女神転生】第1回
  • 今のシンボルとしての猫又 ── VTuber「猫又おかゆ」のように、猫の記号は今も名前ごと受け継がれています。記号を分布として観測する「記号の記録」はPomona デモで公開中

現在の手法では、まだ届かないもの

正直に書いておくと、いまのところ写実化がうまく成立するのは実在パーツ型までです。破れ型――轆轤首の伸びる首、のっぺらぼうの無い顔、化け猫の後脚立ちや毛に浮かぶ顔――は、現在の img2img と LoRA では写実のまま残せておらず、課題として残っています。写実モデルが異形を日常の姿へ均してしまうためで、これは能力の不足というより、生成が世界を「あり得る形」へ均す性質によるもののようです。

別の手立て(異形の部分だけを後から描き込む、人が組んだ下地を質感だけ写実にする、動きで見せる、など)は次回以降に試していきます。配布を予定している学習済みモデルも、当面は実在パーツ型が中心になる見込みです。うまくいかなかったところもそのまま残すのが、この記録の方針です。


これから追加していく妖怪

怪談を軸に、妖怪を一体ずつ型に仕分けながら追記します。船幽霊、大首、稲生物怪録の妖怪たち――そして、写実化の可否から見えてくる新しい型(像を持たず音や気配だけの妖怪など)や、暁斎で見えた画風の軸も、あわせて育てていきます。

更新履歴:2026-06-14 新設(雪女・轆轤首)/ のっぺらぼう・平家の亡霊を追加。2026-06-18 幽霊(河鍋暁斎)を追加し「画風の軸」を導入。2026-06-19 化け猫(実在パーツ型+破れ型の同居)を追加。2026-07-21 猫又を追加(化け猫と同型の直立+二股尾。女神転生・記号DBへ横断リンク)。