こんにちは、パレイド辺境部の橘です。
前回は亀をモチーフに、実写と想像図を並べるこの連載の新しい型を試しました。今回はその型のまま、全国421件の擬態岩のなかで最多37件を数えるモチーフに取り組みます。鬼天狗——鬼と天狗、山に棲むとされてきたものたちの形です。
真っ二つに割れた石 ── 殺生石
まず紹介したいのは、栃木県那須町の殺生石です。この岩には、九尾の狐がもとになったという伝説がついています。平安の世で朝廷を惑わした妖狐・玉藻前が正体を見破られて逃げのび、殺生石に姿を変えたという話です。近づく人や獣の命を奪う毒石として恐れられ、のちに玄翁和尚という僧がこれを打ち破って調伏し、砕けた破片が国じゅうに飛び散った——そう伝えられています。
一つの石が砕けて全国に散らばる、という伝説の構図は、この連載がここまで辿ってきたこと——一つの言葉が複製されて増える幽霊語(第1話)や、名もない無数の人々がそれぞれの土地で像を結んできた擬態岩そのもの(第2話)——と、奇妙に重なって見えます。
そして殺生石には、もう一つ付け加えるべきことがあります。2022年、この石は実際に真っ二つに割れました。長年の風化が進んだ末の、ごく自然な現象だったようですが、「殺生石が割れた」というニュースは全国で報じられました。伝説の石が、伝説そのままに割れて見せた。実写の写真にも、その割れ目がはっきり写っています。

天狗が棲むとされた山で
鬼天狗37件の多くは「天狗岩」という名を持ち、各地の山中に散らばっています。天狗は山伏・修験道の行者と重ねて語られることが多く、剣術を授けたという鞍馬山の伝説はよく知られています。神奈川県・大山の「天狗の鼻突き岩」もその一つです。大山は古くから天狗の棲む山として大山詣での対象になってきました(この山は、本編「日本人面地形」の神奈川回でも人面地形として取り上げた山でもあります)。ここは大山阿夫利神社の参道写真は見つかったものの、岩そのものを写した写真までは確認できなかったため、以下は想像図として見せます。

京都・嵐山や東京・六義園には「座禅石」「座禅岩」と呼ばれる岩が複数あります。修行者が座って禅を組んだと伝わる岩で、天狗そのものではなく、天狗と同じ山にいたとされる行者たちの気配を留めた名です。滋賀・比叡山横川の「護法石」も、修行に仕えた護法童子の伝説を背負っています。
想像図のなかの鬼
37件のうち実写が確認できなかった岩は、想像図として見せます。参照には実物の天狗面の写真(Wikimedia Commons上のCC画像)を構造ガイドに使いました。面という、もともと誇張された造形を下敷きにしているためか、他のモチーフに比べて岩の輪郭に鼻や眉の起伏がくっきり出る回が多かったように思います。


正直に言うと、これらの想像図は「本物らしさ」で言えば行き過ぎている自覚があります。名前だけの岩に、面のような明瞭な造形を与えてしまっている。けれど、鬼や天狗というものが、そもそも人が山の起伏に人ならぬ気配を見て名づけてきたものだと思えば、この行き過ぎもまた一つの見立てのかたちかもしれません。
まとめと次回予告
鬼天狗は421件のなかで最も数が多いモチーフでした。山という、日本の国土の大半を占める地形に、鬼や天狗という山の主が、これほどの数で見立てられてきたことになります。次回は蛇竜——とぐろを巻くものたちの形に取り組みます。