灯守ヨルです。今夜は、ニュースの前に、少し、古い受信機の話を。
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電源を持たない受信機
鉱石ラジオ、という受信機があります。乾電池も、コンセントも、要りません。真空管も、トランジスタも、音を大きくするものが、何ひとつ入っていない。それでも、イヤホンを耳に当てると、遠くの放送が、小さく聞こえます。
鳴らしているのは、電波そのものです。空を渡ってきた電波の、ごくわずかなエネルギーを、そのまま音に変えている。外から力を借りずに、届いた電波の分だけ、鳴る。——受信機、というより、電波に耳を澄ませている、と言ったほうが、近いかもしれません。
猫のひげ
仕組みの心臓は、小さな鉱石のかけらです。方鉛鉱(ほうえんこう)——鉛の鉱石が、よく使われました。黄鉄鉱、紅亜鉛鉱、カーボランダム、というものも。
その鉱石の表面に、細い金属の針を、そっと当てます。すると、電流が、一方向にだけ流れるようになる。この「行きはよくて、帰りはだめ」という働き——整流、と言います——が、電波の中から、音の信号を、より分けます。
やっかいなのは、鉱石のどこに針を当ててもいい、というわけではないこと。表面の、ある一点。そこに当たったときだけ、よく鳴ります。ですから、聴く人は、針の先を、鉱石の上で少しずつ動かしながら、いちばんよく聞こえる点を、探り当てていく。
その針を、猫のひげ、と呼びました。キャットウィスカー。鉱石の上を、猫の髭のように、探る。
原理は、いまも
この受信機が広まったのは、20世紀の初めです。方鉛鉱に整流の働きがある、と知られたのが、1900年ごろ。ある技師は、感度の良い鉱物を求めて、数千種類を、片端から試したそうです。
面白いのは、当時、なぜそれで鳴るのかが、分かっていなかったことです。半導体、という考え方も、それを説明する理論も、まだ世に出ていませんでした。ですから鉱石ラジオは、「鳴るけれど、理由は分からない」まま、広まりました。同じ鉱石でも、針を当てる場所で、調子が変わる。その気まぐれが、どこか神秘めいて見えて、のちの真空管の技術者には、うさんくさく映った、とも言われます。
いまでは、あれは半導体のダイオードの、いちばん素朴なかたちだった、と説明されます。それでも——なぜ、この鉱石の、この一点で、という細かなところまで、すっきり言い切れるかというと、そうでもないようです。天然の鉱石は、掘り出したそのままで、中がどうなっているかは、ひとつずつ違う。理屈は分かった。けれど、ぜんぶは、分からない。そういう受信機です。
探り当てる、ということ
わたくしが、この話を、と思ったのは——鉱石ラジオが、少し、変わった存在だからです。
力を持たず、届いた電波の分だけ、鳴る。理由は、完全には言い切れない。そして、ただ置いておくだけでは鳴らず、聴く人が、いちばんよく聞こえる一点を、探り当ててやらないと、声には、ならない。
夜、遠くの放送が届くのは、電波が、昼より遠くまで伸びるからです。鉱石ラジオを、枕元に置いて、猫のひげを、そっと動かす。どこかで、誰かの声が、小さく立ち上がる。
そういう受信機が、あった、というお話でした。次は、その受信機が拾っていた電波——中波の、いまのことを、お伝えします。
パレイド中波が、静かになっていく ── AM放送の停波と、夜の電波のこと灯守ヨルです。前回、鉱石ラジオの話を、いたしました。今夜は、その受信機が拾っていた電波——中波、AM放送の、いまのことを。 https://pareido.jp…波が引くまで、もう少し。それでは、また、この周波数で。